エスキス アムール
第40章 親友と部下
「返事、こないなあ。
なんだっけか、高峰さん?」
「そう、高峰」
俺の考えていた事がわかったのか、注文整理を終えた要は、ふと、今まさに考えていた彼の事を口に出した。
「だけど、そんな知り合いがいたなんてな。
電機屋の店員だっけ?」
「アルバイトでやってたんだよ。
掃除機買いに行ったら、担当してくれた人でさ。
プレゼン向きだと思う。工学系だし」
「今のご時世にオファーして貰えるんだから、アルバイトもやっとくもんだよな」
「給料少ないけどね」
羨ましそうに声を漏らす要にそう言うと、
吹き出すように笑った。
要はこんな状況も楽しんでくれているみたいで、それが心の負担を軽くしてくれている。
俺は楽しんでいるからいいものの、社員に苦しい思いをさせながら安月給で扱をつかうのは、正直心苦しい。
一緒にこうして働く事を楽しんでくれることほど、嬉しい事はないのだ。
「瞳ちゃんはもうすぐ?」
「うん、こっちで早く暮らしたいーって、
電話する度に言ってるよ。」
彼女は、ニューヨークに行く事を要が話したとき、とても喜んだそうだ。
つくづく心が広い人だと思う。
給料もままならない生活になるかもしれないというのに、フィアンセの転職を許してしまうのだから。
瞳ちゃんもなかなか頭のきれる人だから、此方で仕事するのにあまり苦労はしないだろうけど。
だけど、いくらフィアンセのことが好きだからって、ニューヨークが好きだからって、頭がいいからって、
誰でもできることではない。
これが大和撫子というやつなのだろうか。
コーヒーを注ぎながら、頭の中で考えていると
「あのー、すみません」
聞きなれない声が耳に入った。