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エスキス アムール

第40章 親友と部下




「そういうことじゃないってどういうことだよ!!」

「波留くん、飲み過ぎ。
ほら、水飲んでもう寝よう?」

「もー、俺はこんなにも好きなのにさあー。
なんでだよぅ。なんで隠すんだよお」

「(もー、すごく面倒臭い)」



「え、大野さん、え?木更津さんのこと…え?」

「(こっちも面倒くさい)」



高峰の顔はとても楽しそうだ。
ニヤニヤしている。
修学旅行で寝る直前、先生に見つからないようにヒソヒソ声で恋バナをする女の子みたいなテンションだ。


高峰も相当酔っている。

木更津は、是非とも彼らの記憶よなくなってくれと願ったに違いない。


「そ!!そうなんです!!
俺はね、木更津のことが大好き!
だから、高峰狙ってるんだったら諦めてねー!」


頭を抱えた木更津なんて、このときの俺には目に入らない。
僕の苦労は何だったんだなんて言葉すら耳にも入ってこない。


「じゃあシェアハウスっていうのは嘘でぇ」

「同棲です!」


木更津は崩れ落ちた。


そして、俺に無理やり水を飲ませる。
その目は黙れと言っていた。

だけど、怖くない。
黙れと威圧はしてくるけど、心なしか嬉しそうだから。


なんだ言って欲しかったんじゃん。

なんて、
アルコールでふやけた脳で考える。
俺の為だったのに。


「でも、でもなあ。
信用出来ないなあ。」

「なにがー?」

「大野さんと、木更津さんが恋人同士だなんてー」

「高峰くん、いいから。余計なこと言わなくて。」


俺たちの会話に、
素面の木更津は慌てて入って来てとめる。

だけど、酔っ払いに素面は勝てない。



「じゃあ見せてあげる!!
恋人だって教えてあげるー!」


俺はその言葉を合図に、横で呆れた顔でこちらを見ていた木更津を引っ張ると、彼の唇に自分の唇をぶつけた。

木更津は一瞬だけ驚いた顔をしたものの、ほんの一瞬だけで。
すぐに呆れた顔になって
それを皮切りに自分の意識が遠のく。



「もう、知らないからな」




彼に身を預けるとき、
遠くの方で、木更津の飽きれた声が響いたような気がした。








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