エスキス アムール
第48章 ただいまとおかえり
「久しぶりだな光平」
「お久しぶりです、父さん」
久しぶりだからといって、特に懐かしいだとか、元気そうでなによりだとか、そういった感情は湧いてこない。
早く帰れないかな、というのが僕の今の気持ちだ。
だけど、今日はゆっくりさせて、明日になったら本題を切り出すのだろう。
もうわかっているのだから、さっさとして欲しいものだが、彼の逆鱗に触れては滞在が長引く。
こっちは早く波留くんに触れたいんだ。
そんなヘマはできない。
「元気そうじゃないか」
「はい、拠点を向こうに移しただけですからね」
「…まあ、今日はゆっくり過ごしなさい」
「…はい」
ニコリと愛想よく笑うと、父親もニコリと笑う。
メディアの前でもそれ使ってるけど、全然上手くないからな。と、心の中で突っ込む。
どうせ笑えないのなら、愛想笑いの練習をすればいいんだ。
小さい頃、まだここに住んでいたとき、散々執事に愚痴を言っていたことだった。
懐かしいなと、ひとりで笑う。
そう言うたびに、まあまあと、その執事は宥めてくれた。