エスキス アムール
第48章 ただいまとおかえり
当時のことを思い出していたら、思いの外次の日はあっという間に来た。
「光平、今回呼び出したのは…良い話が来ててな。そろそろお前もいい歳だから…」
でた。
僕の想像通りだ。
ああ、面倒くさい。
「フレジルという会社を知ってるか?」
「あの…製菓会社ですよね」
「そうだ。
そこの社長の娘さんをどうかともちかけてくれてな」
「…見合いですね」
こうして一年に一回は、見合いを進めてくる。
そろそろいい歳だと思ってとか何とか言って。
毎年いい歳じゃないか。
フレジルは確かに有名な大手製菓会社だ。
だけど、あそこのお菓子は正直言って嫌いだ。
僕には甘すぎるものばかり。
波留くんが作ってくれるお菓子の方が比べ物にならないくらいおいしい。
「…あそこのお菓子は正直好きではありませんので」
「ハハハハ!
また、そうやってうまいこと逃げようとして。
もう、決まった人でもいるのか?」
「いますよ。決まった人なら」
僕が顔色も変えずにそう言うと、父親は目を見開いて口を一瞬閉じた。
「いますから、結婚はできません。」