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エスキス アムール

第6章 甘い体験






私は首を振る。

もう小さい頃の事だから、
正直覚えていないのだ。

だから、哀しいとかそんな感情は起こらなかった。


そうすると、
しばらく沈黙が漂って、
大野さんを見ると、



「俺もね、
両親が居ないんだよ。

施設で育ったんだ。」

静かにそう言った。


「そうだったんですか」

大体
このお店にくる人は、
元々地位のある生まれたとかで、社長になっている人が多い。

大野さんは
とても綺麗な顔で
育ちが良さそうに見えたから、

同じように
どこかのお金持ちの家に育ったものだと勝手に想像していた。

だから、とても驚いた。


「そう。

そこのね、
施設の先生がすっげぇ料理下手くそなんだけど、
オムライスだけプロ並みにうまいわけ。

だから、
いつも笑われんだけど、
今でも好きな食べ物は、
オムライスなんだよね。」


大野さんは
その人を思い出しているのか
愛おしそうに一点を見つめた。


そして、

あ、だからかな。
まずいもんでも
うまいって感じるのは。



なんて、優しい顔をして呟いた。




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