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エスキス アムール

第6章 甘い体験




その
優しい顔を見ていると、
こっちまで自然と笑顔になれた。


そして
その優しい瞳は
不意にこちらを向く。


「今、おばあちゃんは
どこに住んでるの?」


「…あ、おばあちゃんは
私が高校の時に亡くなって…
その時にこの仕事を始めたんです。

お金を貯めたくて」


「……そうだったのか…

高校の時じゃあ、大変だったね。」



大野さんは
そう言ってまた、
コーラファンタを口に運んだ。


「どうしてお金を貯めたかったの?」


「…夢のために」


「その夢って…?」

「…。」


「あんま、
言いたく無いよな。

簡単に。」

そう言って、
大野さんは優しい笑みをこぼす。

言いたくなかった訳ではなくて、言うのが照れ臭かったのだ。




それを言えずにうつむく私に、
大野さんは目を向けて、

「…まだ、痛む…?」

そう聞いた。


身体中の痣のことだ。

まだジンジンと痛みが残っていた。

だけど、
嘘をつける位、さっきより全然マシだ。

私は無言で首をふった。




時計は21時30分を指している。

秒針を刻む音が、
部屋に響いた。

大野さんが持つ、
コーラファンタの中に入っている氷が、
カランと、音を鳴らした。


「あの…、」


「…ん?」

私を見つめる優しい瞳。

なんの曇りも無い、
その綺麗な瞳に吸い込まれそうになりながら、聞いた。


何故だか、とても緊張していた。


「どうして、
私の事を軽蔑しないんですか…?」








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