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エスキス アムール

第8章 チケット





「もうそろそろ帰るかぁ。」

大野さんは時間を見て
欠伸をしながら服を着る。


次はいつ来るの?
その言葉が言えなかった。


私は
大野さんの事が好きだけれど

彼は
私をそう言う目で見ていない。



優しさで
彼は此処へ来ているのに
そんな事を聞けば
更に負担をかける事になる。


服を来て、
お金を出して、

帰る支度をする彼を、
黙って見ているしかなかった。



「今日もありがとう。」


「ううん、
私の方こそ今日もありがとう。」

今日の分、これね。

そう言って
手渡されたお金を見つめる。


要らない。

こんな関係じゃなくて、
お金を払わない関係になりたい。


言葉を作るのは簡単なのに
その一言が出なかった。



「…ありがとう…」


渡されたお金から目を逸らし、
一生懸命微笑む。


そしていつも通り扉を開けて、
大野さんが通るのを待った。



「……?」



だけど
今日は扉を開けても
こちらに来ようとしない。

何かを考えているようだった。



「…どうしたの?」


「あー…、あのさ…」



動かない大野さんは
何か言い辛そうな顔をして
私を見つめる。


……もしかして
もう、来られないとか…?

嫌なことを
思い浮かべてしまった。




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