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エスキス アムール

第8章 チケット




あれには
流石にショックを受けた。


以前、
お客と連絡を取り合うこともあると
言っていたので、
携帯はどうしているのかと
訊いたことがあった。


『携帯は、
仕事用とプライベート用に
分けています。』


『俺が届けたやつがプライベート用?』

『はい。……や、いえ。仕事用です……。』




「連絡先を交換しよう」
俺がそう言って、
はるかちゃんが鞄から出した携帯は、
紛れもない。

初めて俺が、
はるかちゃんの
客になった日に届けた、
あの携帯だった。



「ちゃんと見たか?
二台持ちって言っても、
同じ型かもしれないだろ」


「いや、俺が届けたのはスマホ。
もう一台はガラケーって言ってた。」



俺さ、
はるかちゃんと一緒に
居られるだけでいいわけよ。

毎回
抱かなくたっていいんだよ。


隣にはるかちゃんがいて、
話して、
彼女が笑ってるのを見て。

それだけで幸せなわけだよ。

だけど、
風俗行ってんのに抱かないなんて、
そんなことしたらバレるだろ?


はるかちゃんは
そんな俺を求めてるわけじゃない
と思って、抱くでしょ?


そうすると、
『気持ちよくもないのに、
気持ち好いっていって
お金を取っているんです』

彼女が言った、
些細な言葉が蘇ってきて、

気持ち好いって言ってくれても
哀しくなる。

ああ、お客なんだな。


そう思うと、
もう
「はるかちゃん」
なんて呼べない。


「アカリちゃん」と
呼ぶしかなくなる。








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