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真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~

第6章 拙者はその人の記憶を呼び起すごとに、すぐ兄上といいたくなる。

 
 誰かを泣かせてまで、夢に浸る道など、千恵にはどうしても選べない。しかしここで昌幸の告白を断るという事は、夢の拒否。幸村への想いとて同じく夢なのだから、とうとう千恵も現実に向き合わなければならなくなる。心に抱く小さな恋心への決別を。

(ホント、あたしって駄目な人間)

 口を開こうと思うのに、千恵の喉はいっこうに声を上げなかった。そしてずるずると、曖昧なままの今に甘えてしまうのだ。昌幸が強く迫らない事に、正直ほっとする自分がいると、千恵は気付いていた。







 遠い、戦国の世。九度山村に向けて、一人進む大柄な男がいた。彼は供も付けず、妻にすらどこへ行くのか真実を告げず、温かな春の歩きやすい道を行く。

 紀州の人間は人が良く、一人旅である男に対しても親切にしてくれた。この環境ならば健全でいられるだろうと胸を撫で下ろすと同時に、乱世の終わりをひしひしと感じるようで切なくもあった。

「信繁……」

 進んでいく時の中、彼の弟――真田信繁は、乱世の残骸で出来た檻に閉じ込められている。高く昇る太陽を追いながら、真田信之は、時の止まる屋敷へと足を急がせた。



つづく


 

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