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真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~

第7章 敵になっても心得は同じ事である。

 
 しばらく二人は何も語らず、幸村を眺める。接客は真紀の担当だが、幸村も車の奥から客と歓談しているようだった。若い男女を中心に賑わうその場。着物で浮いているはずなのに、幸村は馴染んで見えた。

「……一度、戻りますか? これから夕方くらいまでは、ずっとあの調子でしょうから」

「信繁を一人で置いていって大丈夫なのですか?」

「終わり頃に、迎えに行くようにしてますから。それに最近は、私の方が駅まで迎えに来てもらってますし、近くなら大丈夫です」

「迎えに……ああ、あなたの護衛ですか?」

「護衛なんて言うと、大げさですけどね」

 国親に襲われた日以来、幸村は千恵を駅まで迎えに行くようになっていた。公園、駅前と、段々と幸村のテリトリーは増えているのだ。

「では、一度帰ります。少しこの町は賑やかで、私には刺激が強すぎるようですから」

 信之は踵を返し、そそくさと来た道を戻る。行きは大して表情に変化はなかったが、帰りの信之はずっと何かを思い悩んでいるようだった。

(……もし、信之さんが穴を塞ぐって言ったら。あたしは、受け入れなくちゃいけないな)

 信之の言葉も行動も、全ては弟のため。そう思うと、千恵は信之を悪くは言えない。信之が幸村を、幸村が千恵を思いやるように、千恵も自身の想いに決着を着けなければと考えていた。



つづく


 

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