真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第7章 敵になっても心得は同じ事である。
だが、幸村が石田三成についた理由も、今なら千恵にもよく分かる。たとえ子どもっぽくても、幸村の本質は優しく、人を大事に思える人間だ。ただ、大切な人達を守りたかったのだろう。
「私はもう何年も、信繁の笑った顔を見ていませんでした。いえ、それだけではありません。あの子は私に対し妙に物分かりが良くなって、我が儘の一つも言わなくなったのです」
「あれ、でも朝、手紙でお酒とお金のおねだりされたって言ってたような……」
「ええ、だからその手紙が届いた時は驚きました。あの子はとっくに裏切り者の私を見限り、疎遠になるような態度を取っているのだと思っていましたから」
すると信之は、押し黙り千恵を見つめる。黙って見られると美形のオーラに圧倒され、千恵は気がなくとも落ち着かなくなる。
「あの子が変わったのは……あなたと知り合ったからかもしれませんね」
「信之さん……」
おそらく幸村は、信之を嫌って我が儘を言わなくなった訳ではないだろう。だがそれを口で伝えたところで、長年に刻まれた溝は埋まらない。千恵はどうにかして二人のわだかまりを解きたかったが、うまい方法は思い付かなかった。