真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第2章 千恵は激怒した。
千恵の頭にこびりついて離れないのは、昨日までは愛を紡いでいた口から放たれた、悪意に満ちた一言だった。
『千恵はさ――』
目覚ましがけたたましく鳴く中、千恵は跳ね起きる。汗を掻いているのに体は寒く、心臓は妙な動悸が止まらない。
「……もう、やだ」
千恵は頭を抱え、ぽつりと呟く。しかしすぐに首を振り、焦燥を振り払うと目覚ましを乱暴に叩いて止めるとパイプベッドから飛び降りた。
気持ち悪い汗をシャワーで流し、千恵はキャミソールにパンツというしどけない姿で部屋に戻る。どうせすぐに着替えなければならないという時間でもあって、つい横着してしまったのだ。しかしそれは、戦国の世と繋がるこの部屋において、決してしてはならない油断だった。
寝室のドアを開けると、ベッドには幸村が憂い顔で座っていた。幸村は千恵の気配に気付くとすぐに顔を上げ、口を開く。
「千恵殿、少しお話が――」
そして千恵のあられもない姿に気付くと、硬直してしまう。千恵もまた、夜にしか現れないとばかり思っていた幸村の出現に、頭が真っ白になってしまう。
続いたのは、羞恥による叫び声だった。