真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第8章 遊園地を回りながら、こう考えた。
「私も、手紙を送ってもいいですか?」
「それはもちろん。幸村に渡していただければ、真田の使者が届けてくださるでしょう」
握手を交わした千恵に、涙が浮かぶ。信之はそれを左手で拭うと、名残惜しげに両手を離した。
「二人を頼みます。これからもご迷惑をお掛けすると思いますが、どうぞよしなに」
クローゼットをくぐれば、それは永遠にも等しい別れである。千恵はそれを見送り、思い出を大切に胸の中へしまう。たとえ二度と顔を合わせる事がなくとも、この出会いは一生忘れないだろう。今日という日の終わりは、人生を変える一歩でもあるのだから。
(……ありがとう、信之さん。あたし、もう迷わないよ)
幸村と昌幸も戻り、静かになった部屋。千恵はベッドに腰掛けると、電話を手に取った。
「……――もしもし、久し振り。直接会って話がしたいの。あんまり遅くなければいつでもいいから、時間取れないかな」
耳に響くのは、本来ならもう二度と聞きたくなかった低い声。覚悟していても、声を聞けば顔は歪んだ。
「うん、明後日の仕事終わりね。待ってる、国親」
現実に戻れば、もう時計は止まらない。進み出す濁流に呑まれないよう、千恵は頬を叩き気合いを入れた。
つづく