真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第8章 遊園地を回りながら、こう考えた。
幸村の冷たい視線も構わず、昌幸は軽口を叩く。が、それでも心が遠くに飛んだままの千恵を見ると、千恵の頭も撫でくり回した。
「感謝する。死に際に、いい思い出が出来た。未来も……悪いものではないな」
それぞれの心に何かを残し、夢の時間は過ぎ去っていく。だが疲れと共にやってくる充実感は、自然と皆の表情を緩めていた。
そして、千恵の部屋まで戻ると、信之はスーツから着物に着替え、改めて千恵に一礼する。
「今日は本当にありがとうございました。私は、明日の朝九度山を発つつもりです。この先お会いする事は難しいかもしれませんが……向こうから、手紙を送らせてください。幸村、千恵殿に、渡してくれるな?」
「え? 兄上……今、なんと?」
「ああ、今回のお礼もしたいですね。千恵殿は青と緑、どちらがお好きですか?」
「兄上!」
「少し黙っていなさい、幸村。お前と違って、私はあまり彼女と話せないのですよ」
「だって、兄上……」
幸村はまだ何か言いたげだったが、兄の圧力に負けて肩を小さくした。それを見て頷くと、信之は千恵に右手を差し出した。