真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第9章 嵐が来る。
ゴールデンウイークが明ければ、また職場への往復が始まる。最近は幸村が駅前まで迎えに来るようになっていたが、千恵はこの日それを断って出社した。帰りに、待ち合わせをしていたからだ。
かつて習慣だった、職場から出ると迎えてくれる大きな人影。
「千恵」
名前を呼ばれるだけで胸がときめいたその人は、声だけで千恵の警戒を高める。だが千恵は動揺を隠し、真っ直ぐ目を向けた。
「国親……」
「良かった、本当に話聞いてくれるんだ。じゃあひとまず、希望通り店に入ろうか」
話し合いの舞台に、二人がよく利用していたレストランを選んだのは千恵だった。人目のあるところなら、国親もおかしな真似は出来ないと踏んでいた結果だった。
レストランの席についた後、初めに口を開いたのは千恵だった。
「今日は急でごめんなさい。でも、逃げてちゃ駄目だと思ったら、いてもたってもいられなくて」
「いや、構わないよ。千恵から連絡来て、嬉しかったし」
「……それで、本題なんだけど」
千恵はお冷やを一気に飲み干すと、膝に置いた拳を握る。