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真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~

第1章 クローゼットの向こうは戦国時代でした。

 






 小さなテレビの前で千恵の隣に正座し、買って間もない2P用コントローラーを握るその男の名は『真田幸村』である。彼が千恵と共にプレイしているのは、先月発売されたばかりの格闘ゲーム。着物に身を包み、どこからどう見ても純和風な幸村が操作していたのは、金髪半裸のアメリカ人ボクサーだった。

 幸村の操作するキャラは、華麗にコンボを繋ぎ千恵を翻弄する。そして二十秒も経たない内に、テレビからは小粋な声が流れた。

『K.O.2P、WIN』

「大勝利にござる!」

 勝ったと思えば幸村は、コントローラーを投げ出し千恵に抱き付く。男らしく凛々しい顔立ちが不意に近付き、千恵の心臓が高鳴った。

「ちょ……苦しいってば!」

 幸村は、同年代の男性から比べるとかなり小柄である。精悍な表情は、三十路を超えた落ち着きを感じさせるが、背丈だけを見れば中学生のように見えた。もっとも、精悍な顔すら今は、勝利に破顔し無邪気な少年のようだが。しかし小柄と言っても、千恵を抱き締める腕や、密着する腹などは筋肉に覆われている。女の力で、抱擁から抜け出すのは不可能だった。
 

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