真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第10章 「両腕を一生お貸ししてもいいわ。」と娘は言った。
「美穂……」
「離れるかどうかは、その時に決める事ね。そこまで覚悟してるなら、どうせ誰が止めても聞かないでしょ? 私は千恵の隙を見ながら、地道に改心させるから覚悟して」
厳しいが筋の通る美穂の答えに、千恵は涙を滲ませる。美穂は大きな溜め息をつくと、しんみりした空気を吹き飛ばすように強く言い放った。
「今度、また千恵ん家に飲みに行くわよ。で、幸村も連れてきなさい。悪気はないのにずるい男って一番タチが悪いんだから、ねじ伏せてやるわ」
「うん……ありがとう」
「ありがたくない! 私は今日から、千恵と幸村の仲を引き裂くつもりなんだからね!」
史実の通りに時が進めば、美穂が思う「泣き」以上に辛い現実が千恵を待っている。幸せといっても、多くの人間が辿るなだらかな道とはかけ離れていた。
だが、史実には残っていない戦国の世は確かに存在する。未来の人間だからといって、過去を全て知っている訳ではないのだ。
幸村が千恵と結ばれても、史料に書かれた幸村の最期は変わらない。運命は、ただ粛々と歯車を回し続けていた。
つづく