真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第2章 千恵は激怒した。
幸村はカーテンを開き、窓の外を見てみる。しかし室内の光が反射して、外の景色はよく見えなかった。
「これが、我々の限界……」
映るのは、遠い時代の着物に身を包んだ場違いな幸村自身のみ。昌幸は幸村の肩に手を乗せると、クローゼットを指差した。
「帰るぞ、幸村」
クローゼットを抜ければ、そこは本来の居場所。しかしその屋敷も、この部屋と同じく外へ出る事は許されていないのだ。
「……拙者は、何のために生きているのであろうか」
昌幸は、幸村の呟きを聞かなかった事にして先を行く。幸村は小さな溜め息を吐くと、しばらく見えない外を見つめた後、部屋の電気を消した。
幸村が背を向けた窓の向こうは、街灯や車のライトが星のように輝いている。まるで、夜空を見下ろすような景色。しかし幸村はそれに気付かず、光のないクローゼットの暗闇へと帰っていった。
幸村の本来暮らす屋敷には、当然電灯のような明かりはない。自分以外に何者も存在しないかのような静けさに、幸村は無情を覚えていた。これが自分が歩むべき現実なのだと、理解しているにも関わらず。
つづく