真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第2章 千恵は激怒した。
千恵が潰れた後、二人は千恵をベッドまで運び寝かせると、深い溜め息をつく。
「まあ……荒れる気持ちはもっともだな」
昌幸は千恵に毛布を掛けながら呟く。戦国の世は一夫多妻、さらには男だろうがお構いなしの風潮ではあるが、全て前提には正妻を大事に扱うという条件がある。婚約者を放り出し男に走るのは、現代の価値観と違う真田父子にとっても異様な話だった。
「しかしなぜ、その不躾で下劣な男は、再び千恵殿の前に現れたのだろうか」
「それは、逃がした後に後悔したため……だと良いのだがな」
「父上は、何か別に理由があると?」
「情報が少なすぎる。仮説などいくらでも想定出来るが、絞る事は出来ないな」
千恵は今朝昌幸に叱られたばかりだというのに、他人の男の前で無防備に眠っている。相手はそういう千恵の隙を充分に知っている男なのだ。付け込もうと企んでもおかしくはない。
「拙者に、何か出来る事があれば良いのだが」
「私達に出来るのは、精々愚痴を聞いてやる事だけだな。それが、この部屋でしか活動出来ない私達の限界だろう」