真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第3章 あなたにこの生活を教えよう。
「気が利くな、流石は千恵だ」
昌幸はそれを一気に飲み干すと、深い溜め息を吐きベンチにもたれる。さり気なく千恵の肩を抱き千恵を動揺させるが、続く言葉は振り払う気を失わせた。
「やはり若いと、適応力が違うな。幸村は元々したたかだけあって、平成に慣れてきている」
「昌幸さんは、違うんですか?」
「驚く事が多すぎて、いささか疲れたな。不便でも、私は戦国の気風が肌に合っているようだ。もっとも過去も、徳川のせいでその気風が失われようとしているが」
時代の違いに何を思うのか。昌幸の思いは量りきれず、千恵は言葉を失ってしまう。だが昌幸は苦笑いして、千恵の肩に頭を寄せた。
「千恵は優しいな。私は千恵のそういう所が好きだ」
「え、あの……」
「しばしの間、肩を貸してくれ」
触れる温もりは千恵の胸を騒がせるが、不快ではない。程なくして昌幸の寝息が聞こえると、千恵は小さな溜め息を吐いた。
(やっぱり、二人は時代の違う人なんだ。簡単に好きとか、そんな事……言える訳ない)
昌幸が言うような親愛であるなら、千恵も好意を口に出来るだろう。しかし平成にいてほしいと望むような真似は、出来そうになかった。
(幸村だって、いつ戦国時代の方がいいって言うか、分からないもん……)
時代の壁は、余りにも高い。目に見えているのに、手を伸ばしても届かない太陽のように。
温かった日差しが、少しだけ冷たく感じる。千恵は思わず昌幸の温もりに頼りながら、逃げるように目を閉じた。
つづく