真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第4章 幸村は町の移動販売車でタコスを焼く係りでした。
(なんで千恵、服を出しっぱなしにしてるんだろ)
大きなクローゼットがあるにも関わらず、部屋には衣装ケースが積まれている。コートやスーツも、クローゼットではなくハンガーラックに掛けてあるのだ。
(そういえばここ、幽霊が出るとか言ってたっけ。あそこにびっしりお札とか貼ってあるのかな)
収納があるのに、あえて使わない理由など考えられない。となれば、クローゼットは使いたくても使えないのだろう。美穂の頭に、クローゼットに対する興味が沸いていた。
部屋の主である千恵は、引きずっても起きないくらい深く眠っている。多少クローゼットに触っても、起きないのは間違いないだろう。
が、その時ピシ、と何かが軋むような音が響く。深夜、暗い部屋の中で聞こえたそれは、美穂の背筋を寒くした。
(……明日、千恵に聞いてみよ)
クローゼットを開けて、何か怪しいものと対面したら洒落にならない。結局美穂はそのまま布団を被り、そのまま眠りに着く事にした。
二人が眠った後、夜は静かに過ぎていく。幽霊はおろか虫一匹の羽音すらないまま、朝日は昇っていった。
つづく