真田幸村九度山ライフ~恋の相手は戦国武将~
第6章 拙者はその人の記憶を呼び起すごとに、すぐ兄上といいたくなる。
真紀は、何も聞かず、ただたわいもない話をしてその場を盛り上げた。傷に触れず、ただ光を照らす心遣い、そして美味しい食事と酒は、千恵をすっかり元の調子に戻していた。気分良く帰ったためか、千恵は自分の悪い癖を忘れていた。夜も遅いのに、周りに対し何一つ警戒していなかったのだ。
夜も更け、マンションの中に入ればすれ違う人は誰もいない。自分の部屋の前に立ち、鍵を手にしたその時だった。
「っ!」
背後から口を塞がれ、鍵を奪われる。千恵の体を押さえる大きな体は、心当たりがあった。
(国親……!?)
口ごと頭を押さえられているため、振り向く事は出来ない。鍵を回し扉を開く手には、見覚えがあった。
押し込められる形で部屋の中に入ると、千恵は靴を履いたままリビングのソファに投げ出される。その上に覆い被さったのは、やはり国親であった。
「ごめん、驚いた? でもこうでもしなきゃ、話聞いてくれないだろうと思って。叫ばれると困るから、少しの間だけ縛らせてね」
初めから千恵を拘束するつもりで現れたのだろう、国親は千恵を白いタオルで口を塞ぎ、両手も頭の上で拘束する。