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Gentle rain

第8章 優しい雨

「本当か?」

兄さんが真剣な目で、私を見つめる。

「三科に襲われた時、美雨は無かった事にしてと。誰にも言わないでと言ったよな。」

兄さんの真剣な目が、あの日の事を思い起こさせる。


「最初は、男に襲われた事なんて、泣き寝入りするのは悔しいけど誰にも知られたくない。そんな気持ちだと思ってた。だが、時間が経ってふと考えてみると、三科は俺に『妹をくれ。』と言った。もしかしたら…三科は最後まで無理に、美雨の体を要求したわけじゃないんじゃないか?」

忘れかけていたあの人の声が、だんだん聞こえてきそう。

「わかんないよ。」

「美雨。」

「もう、忘れたから。」

忘れた。

ううん、忘れる。



「忘れたんだったら、いいんだ。」

兄さんはそう言うと、スッと立ち上がった。

「ただ美雨。これだけは覚えていてくれ。」

そっと、兄さんの温かい手が、私の頬に触れる。

「自分を犠牲にするような人生なんて、送らないでくれ。」

「…わかった。」

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