テキストサイズ

Gentle rain

第8章 優しい雨

それから三日間。

兄は、家に帰って来なかった。


『ごめん、美雨。仕事が立て込んでいるんだ。』

そんな言い訳をする時でさえ、兄は何かを急いでいるようだった。

『小林さんがいるから、家の事で困っている事はないだろう?あと、小林さんが帰った後は、きちんと戸締りをして……』

「大丈夫よ、兄さん。私、もう二十歳を過ぎているんだから。」

『……そうか。じゃあ、家の事。頼んだぞ。』

「うん。」


携帯を切った後、周りをぐるっと、見まわした。

両親がいる時は、家族の他にも、お手伝いさんが数人いた。

でも今は、両親もいない。

兄も仕事でなかなか帰ってこない。

住み込みのお手伝いさんは一人もいなく、通いのお手伝いさんも、『あなた方の世話をするのが、私の余生の趣味みたいなものでね。』と言ってくれる小林さんだけ。

この家が、一人で暮らすには広すぎることに、改めて気づいた。

それはさておき、兄の事は気にかかるけれど、心配はしていない。

兄には、支えてくれる彼女さんがいるから。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ