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Gentle rain

第3章 愛してるの基準

比較的新しいサンダルを俺に履かせて、菜摘さんは俺の少し前を歩き出した。

「すみません。父がとんでもない事を言い出して。」

そう言った彼女には、笑顔がなかった。

「とんでもない事?」

大体見当はついていたけれど、わざと聞き返した。

「庭を案内しろだなんて。私もあまり詳しくないですし、何より階堂さんが庭に興味なんかおありではないでしょう。」

自然に振り返った様は、その日本庭園にふさわしい存在感を放っていて、さすが社長令嬢だと、改めて実感させられた。

「いえ。元々この庭には興味を持っていたんです。懇親会でお会いする度に、この庭の事をお話されていたので。」

「まあ。そうだったんですね。」

菜摘さんは少し、か弱い性格なのかもしれないと思ったのは、彼女の覇気のない声のせいだ。

「森川社長は以前から、庭もインテリアの一部だと仰っていました。お父様にとっては、庭も含めてご自分の自慢の作品なのだと思いますよ。」

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