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Gentle rain

第3章 愛してるの基準

まるで父親の気持ちを知ってか知らないでか、菜摘さんの顔からは、先ほどまでの明るい笑顔は消えていた。

「父の言う事は、よくわかっているんです。早く結婚して安心させてくれって……」

菜摘さんは庭にある池を覗き込むように、橋の上に腰を降ろした。

「気にすることはありません。森川社長は、無理に結婚させようなんて、思っていないでしょうし。それに……」

菜摘さんの小さな肩が、やるせなく映る。

「あなたが好きで付き合っていたと言う事は、それだけ素敵な男性だったんでしょう?」

頭を横に振った菜摘さんは、更に下を向いてしまった。

「いいえ。父の言う通り、ろくでもない人だったんです。浮気はしょっちゅうでしたし、あまり仕事を真面目に考える人ではなかったですし……」

「へえ……」

池の鯉が跳ね上がる音が、虚しく響く。

「恋愛って難しいですね。相手をいいと思って傍にいたはずなのに、いつの間にかお互いの心が、離れていくなんて。」

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