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Gentle rain

第5章 初めての夜

その時の彼女の顔が、悲しげに見えたのは、何故なのだろう。

「そうだ、美雨ちゃん。よければこのお礼をしたいんだけど、明日、予定空いてる?」

「あっ……」

彼女の目が左右に動く。

その迷っている表情は、何を意味するんだ。

「都合つかない?」

小さく頷く彼女。

「そっか。残念……いつでもいいから、俺の携帯に連絡して。」

そう言って、俺は上着のポケットから名刺入れを取り出すと、その中の一枚に、自分の携帯の番号を書いて、彼女に渡した。

恐る恐る受け取る彼女は、きっと男性に名刺を渡されるのが、初めてなんじゃないかな。

「遠慮しなくていいから。本当にいつでも連絡して。」

いいお兄さんを気取ったつもりなのに、彼女の反応は鈍かった。

「美雨ちゃん?」

ハッとした彼女は、一瞬俺を見るけれど、すぐに違う方向を見る。

もしかして俺、避けられているのか?

「じゃあ、私はこれで。」

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