テキストサイズ

Gentle rain

第5章 初めての夜

気付かない程に声を震わせて、彼女は俺を振り切るかのように、入口へと歩き出した。

その姿を見て、何かが俺の胸に引っかかる。

そのまま、彼女が会社を出るのを待って、俺も後ろを振り向く。

何なのだろう。

何か彼女に避けられるような事を、俺はしてしまったのだろうか。

カツン、カツン、カツンとゆっくり音を立てながら歩き、途中で俺は彼女に届けてもらった手帳を開いた。

今日の予定のところ、森川社長のホームパーティーの日時が書いてあるはず。

だが俺はそこに、目を奪われた。

【菜摘さんと食事】

バタンと勢いよく、手帳を閉じた。


-すみません。中身を見てしまって-


彼女はそう言っていた。

もし、これを彼女が見ていたら?

落ちつけ。

今度こそ落ちつけ。

見ていたとしたって、彼女には関係ない話じゃないか。

いや。

彼女が俺を避けている理由が、これだとしたら?

三秒後、俺はクルッと振り向いて、会社の入口に向かって走り出した。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ