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Gentle rain

第5章 初めての夜

菜摘さんの潤んだ瞳に、俺が映っていた。

どちらともなく、顔を近づけて、ゆっくりと二人の唇を重ね合わせた。

清楚な菜摘さんの、情熱的なくちづけ。

数年前の、そう今日会話を交わした、三科君くらいの年齢の俺だったら、間違いなく菜摘さんに気持ちまで、奪われていただろう。

「…あまり、乗り気じゃなかった?」

俺の唇を片手でなぞりながら、菜摘さんは甘い吐息を、俺にくれた。

「いや。あまりにも情熱的なキスだったから、ゆっくりと味わってみたくなった。」

「余裕なのね。」

「君だってそうだ。」

「私?」

そう言って見つめた菜摘さんの目は、トロンとしていて、まるでこの夢のような時間に、酔っているいるような気がした。

「焦らないで。二人の時間は、始まったばかりだ。」

なぜそんな言葉を、菜摘さんにかけたのか、自分でもわからなかった。

ただ一つ、キスだけで終わらせようとしていたのは、こんな時でも、夏目の妹を思い出して、消えようとしてくれなかったからかもしれない。

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