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Gentle rain

第5章 初めての夜

料理が出てきてからも、彼女から目が離せなかった。

彼女のテーブルマナーは、完璧だった。

どの仕草を見ても、綺麗だと言わざるを得なかった。

「美味しい?」

「はい、美味しいです。」

「お父さんと食べた料理、思い出した?」

彼女は少し照れた様子を見せた。

「なんとなく。思い出しました。」

「それは…よかった。」

夏目の話では、高校生になる頃に両親を亡くしたという彼女。

その当時は、この料理が何なのかだなんて、知らずに食べただろうが、それは紛れもなく父親との思い出の一つになっているんだ。

それを思い出せただけでも、彼女は、ここに来た事をよかったと思ってくれるだろうか。

「階堂さん?」

「ん?」

「私に何か、ついていますか?」

「ああ、ごめんごめん。」

あまりにも、彼女を見つめすぎてしまった。

それでも普通に料理を口元に運ぶなんて、彼女は余程この状況に慣れているんだろうな。

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