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Gentle rain

第5章 初めての夜

わざと冷たい態度を取ると、困った顔をして、俯いて。

俺は小学生か。

「今日は俺が誘ったんだから、美雨ちゃんは『ごちそう様!』って笑顔で言ってくれればそれでいいんだよ。」

「笑って?」

「そ。笑って。」

すると彼女は、しばらくはにかんだ後、にっこり笑ってくれた。

「ごちそう様でした。美味しかったです。」

「それはよかった。じゃあ、お店出たところで、待っててね。」

「はい。」

そう言って彼女の背中を見送って、お会計の場所で、カードを出した。

お金を払っている時でさえ、気持ちがふわっとしていて、さっきの彼女の困った顔を思い出しては、お店の人に知られないように、密かにニヤけてしまった。

金額なんてどうでもいい。

彼女と一緒に食事ができた事が、ただただ楽しかった。

その為の代価など、いくらでも払いたい気分にさせてくれたんだ。

ああ、こんな気持ちがあるんだ。

30も半ばになって、初めてその事を知った。

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