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たゆたう草舟

第2章 余計なお世話

 






 私に、恋というものを意識させたのは、昌幸様の息子であり、私と同い年の信繁様でした。同い年、という親近感のためか、信繁様はいつも、身寄りがない私にも優しく接してくださいました。その信繁様が持ち出した話が、十七になってようやく、私が女である事を思い出させたのです。

「お葉(よう)、お前山田殿の嫡男は知っているか?」

 武田滅亡後、織田、北条と主君を変えた真田は、今は徳川家の家臣として、上杉の抑えとして新たに上田へ居城を築いておりました。まだ全体は未完成ではありますが、上田の居城へと移ったばかりの忙しい最中に、信繁様は私を部屋まで呼び寄せたのです。

「山田殿は、お葉の父君と深い親交があったらしい。そして嫡男の信明殿は、ちょうど二十歳を迎えたばかりとか」

「はあ、そうですか……」

 信繁様には悪いと思いますが、この頃奉公人は荷物の片付けもあり、新しい城の勝手に慣れていなかったため、とにかく忙しかったのです。彼に悪気がないのは幼なじみゆえ分かっていますが、早く済ませて仕事に戻りたいとばかり思っていました。
 

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