たゆたう草舟
第7章 伊賀の「しのぶ」
旅に出たはいいものの、時雨さんの言う通り徳川と真田で争いが起きたため、なかなか上田に近付く事は出来ませんでした。ようやく城下町に入った時、既に上田では戦が起こった後だったのです。
「ひどい……」
真っ黒に焼け焦げ、朽ちた建物。賑わっていた上田は、見る影もなくなっていました。
「――いや、でも人は無事みたいだ。ほら、あちこちで復旧作業してるよ。大丈夫、この町は死んじゃない」
私は絶望に打ちひしがれそうになりますが、時雨さんは辺りを見回し冷静な声を上げました。言われてみれば、戦の後だというのに、人々の表情は生き生きとしています。戦はどうなったのか、昌幸様は無事なのか知りたくて、私は近くで大工仕事をしていた年配の男性に訊ねてみました。そして返ってきた言葉は、驚くものでした。
「真田の大名様は、本当に天才だよ。何千人と集めて攻めてきた徳川軍を、千にも満たない兵でこてんぱんにのしちまったのさ」
「か、勝ったのですか? 徳川に?」
「町はこの通りだが、家なんざいくらでも建て直せる。人は皆城内に避難してたから、無事だしな」