たゆたう草舟
第8章 弓張る夜半に 千曲を超えて
私の腕を引いて広間から立ち去る昌幸様は、ひとまず私に呆れた様子ではありませんでした。が、この先を思えば、それはそれで恥ずかしいもの。寝所に着くと、さっそく昌幸様は私を布団に沈め、深く口付けなさいました。
「んっ……」
心の準備が出来ていない、と思いましたが、よくよく考えれば今まで昌幸様と邂逅した時に、心の準備が出来ていた時などありませんでした。先の読めない方ですから、この先もこうして私は振り回されるのでしょう。
「お葉」
すると昌幸様は、不意に神妙な顔をして私に訊ねました。
「私はこの先も、父や兄、御屋形様のように大きな人間ではいられないだろう。その私に……ついてきてくれるか?」
「昌幸様だから、ついていきたいと思うんです。この命が沈む時まで――沈んでも、心は共に」
「そうだな、お前は私が態度を決めかねていた十年の間も、私に寄り添っていた。それをただ、信じればいいだけだな」
この乱世、どんな形で穏やかな波が荒れるかは分かりません。しかし、私はこれだけは確かに誓えます。私の全ては、昌幸様のために――
おわり