たゆたう草舟
第8章 弓張る夜半に 千曲を超えて
睨み合う二人を止めようと私は間に入りますが、二人が収まる気配はありません。
「そういう問題じゃないんだお葉、俺は今、ここで父上を超えると誓う!」
「ぬるい! 父の壁は厚く高い事を証明してくれるわ!」
これはきっと、仲の良い二人の戯れ。とはいえ、今にも組み手を始めそうな勢いで立ち上がられては、誰かが怪我をなさるのではないかと焦ってしまいます。
「昌幸様!」
ここで止めるのが、妻としての私の務め。私も立ち上がると、とにかく何か言わねばと息を吸いました。
「の……信繁様ばかりに構われて、ずるいです! 私も構ってください!」
しかし口を突いて出たのは、子どもみたいな本音。言ってしまってから、私は後悔します。
やはり私はまだ子どもで、昌幸様を支えるなど思い上がりも甚だしいのでしょうか。落ち込んでいると、昌幸様が私の腕を掴みました。
「ふむ……確かに、もう宴もたけなわだ。信繁と遊んで無駄な体力を使うなら、お前と戯れた方が楽しいに違いないな」
「え? あの、昌幸様……」
「皆、後は各々楽しむが良い。私は花嫁と退散しよう」