たゆたう草舟
第3章 誤解と裏目とまた誤解
結婚、と言えば周囲では、現在真田が主君と仰ぐ徳川家のお姫様も、北条との和睦のため嫁ぐのだと話題になっておりました。その北条も短い間ですが徳川の前に、真田が従属したお家。真田の情勢も目まぐるしいですが、東の大名は皆本能寺の変による混乱に振り回されておりました。
武家の婚姻とは、政です。惚れた腫れたの浮ついたものではありません。どのような思いで姫は北条の元へ参るのだろうと、私はぼんやりと考えながら掃除をしておりました。
「あの……お葉殿」
声を掛けられたのは、そんな時でした。気の抜けた私は何気なく振り向いたのですが、相手の顔を見ると強張ってしまいました。
「信明様……」
彼は明らかに落ち込んだ様子で私に一礼すると、この前とは違う、張りのない声で言いました。
「この前は、申し訳なかった。あのような事をする気はなかったのです。しかしようやくあなたと話せたと思ったら、つい」
もういいのです、とは言えませんでした。しかし彼が本当に悔いているのは分かりましたから、責める事も出来ませんでした。