たゆたう草舟
第3章 誤解と裏目とまた誤解
「昌幸様から、縁談をいただきました。徳川家と繋がりを持つ事になるこの話、山田家が真田に信頼されている証でもあります。断る訳にはいきません」
「……櫻井家の事は、お気になさらないでください。皆が死に、たまたま私だけが生き残った。そういう縁なのでしょう」
「違うのです! 拙者は、誰と結ばれようとあなたを諦める事など出来ないのです」
信明様はまた私に頭を下げると、震える声で打ち明けます。
「これから正室を迎える身で、不躾な願いだとは分かっています。しかし……お葉殿、拙者の元に、側室として嫁いではくれないでしょうか」
その願いに、私はすぐ言葉を返せませんでした。無論そんな事、出来るはずがありません。これから嫁ぐ須貝様の娘からすれば、これほど屈辱的な仕打ちはないでしょう。
ですが、私は彼に自分と同じものを感じたのです。一度見かけた者を、深く心も通じ合っていないにも関わらず愛する様――それはまさしく、昌幸様に対する私でした。
立場が違えば、こんなにも不躾な人間に見えてしまうのです。事実好きだと言われても、見えないところで育まれた彼の気持ちに、私は有り難みを感じません。