たゆたう草舟
第5章 月草の 消ぬべくも我は 迎え往く
私はそれからしばらく病にて寝込んでしまい、信繁様と共に呼ばれたのは六日後の事でした。しかし時を置いたのは、私の体調を計らってくださった訳ではないようです。昌幸様と対面したその時、連れてこられたもう一人の様子を見れば、それは明らかでした。
「信明殿……!?」
そこにいた信明様は、縄で縛られ暴行の後が体中にあり、まるで罪人のようでした。私と信繁様は驚き固まりますが、昌幸様は氷のように冷めた目で、戸惑う私達に平伏を促しました。
「さて、お葉。お前はあの日、何があって山田の屋敷に寝ていた?」
昌幸は平伏を促した割に、すぐに面を上げさせ、私に訊ねます。信明様がどうして捕らわれているのか、昌幸様はすぐに話してくださるつもりはないようです。ひとまず私は、聞かれた事をそのまま答えました。
「あの日、私は心配事があり、つい城から抜け出してしまいました。町を歩いていると、お志乃という娘さんとぶつかってしまい、彼女の持っていた桶の水を被ってしまったのです」
「お志乃とは、お前の知り合いか?」
「いえ、その場で偶然出くわした方です」