たゆたう草舟
第5章 月草の 消ぬべくも我は 迎え往く
昌幸様は機嫌よく頷き、私に続きを求めます。その笑みに底知れぬ怖さを覚えながら、私は口を開きました。
「彼女は私の着物を洗って返したいからと、私を家に呼んでくださいました。しかし水を被ったせいでしょうか……私は体調を崩し、倒れてしまったのです」
「体調を、か。ただ水を被っただけで、倒れるほど重い病にはなるまい。その日は元から体調が悪かったのではないか?」
「いいえ。私は家族を皆病で亡くしていますから、体調には平時から気を付けています。具合は悪くなかったはずなのです」
「つまり、良く分からぬが倒れ、いつの間にか山田に保護されていた、と」
「お志乃さんが私を案じ助けを求めていた所を、信明様が見掛けたらしいのです。それで、お屋敷に――」
昌幸様は私の言葉を遮るように扇子を開き、ひらひらと扇ぎます。私が思わず口をつぐめば、昌幸様は鋭い目で信明様を睨みました。
「おかしな話だと思わないか? 突発的に抜け出したその日に、偶然見知らぬ娘と出会い、偶然体調を崩し、偶然お前がお葉を見つけ、保護する――都合良く、こんなにも偶然が重なると思うか?」