たゆたう草舟
第6章 甲賀の時雨
私とその方の出会いは、『偶然』でした。
「おっと、嬢ちゃん。そっちの道は、山賊が出るってもっぱらの噂だ。京へ向かうにゃ近道に見えるかもしれないが、やめときな」
上田を出て、特にあてもなく歩いていると、一人の男性に声を掛けられました。帯刀してはいますが、背中に抱えた荷物の多さを見ると、武士ではないようです。私が呆けていると、彼は怪訝そうな表情をして、私の前で手を振りました。
「おい、聞いているか?」
「あ……はい、教えてくださって、ありがとうございます。気を付けますね」
見たところ、彼は私より十は年上。旅慣れた方なのでしょう。私が頭を下げても彼は渋い顔をして、無精髭の生えた顔を近付けてきました。
「なんだかボケッとして、危なっかしいなぁ……初めてのおつかいか何かかい?」
「いえ、あの……私、事情があって上田を離れなくてはならなくて……歩いていれば、どこかいい場所にたどり着けるかな、と」
「このご時世に、そんな呑気な……女の一人旅ってだけでも大変だろうに。本当に、あてもないのかい?」
「は、はい」