たゆたう草舟
第6章 甲賀の時雨
すると彼は背負った荷物を下ろすと、私に人懐こい子犬のような笑いを浮かべます。それは少し昌幸様に似ていて、胸をざわつかせました。
「そんな嬢ちゃんには、旅の御守りなんかどうだい? なんと安芸の厳島から仕入れた、由緒正しき御守りだよ!」
「あ……商いをされているんですね。でも、私手持ちのお金もないので」
「そうかい? しかし、そんな呑気な嬢ちゃんを一人にしておくのも心配だねぇ……」
彼は妙案が浮かんだとばかりに手を叩くと、私の手を掴みぶんぶんと振り回しました。
「なら、用心棒はどうよ!? 嬢ちゃんの行きたい場所が見つかるまで、俺が護衛してやる。その代わり、嬢ちゃんには、商いの手伝いをしてもらう。悪い話じゃないだろ?」
「え? でも、初めて出会った方に、ご迷惑では」
「なに、俺は十二の頃からそうやって生きてきたのよ。袖振り合うも多生の縁ってね。嬢ちゃん、名前は? 俺は時雨ってんだ、よろしくな」
なんとも強引な方ですが、不思議と嫌な気がしないのは、彼の笑みが、どこか昌幸様に似ているからでしょうか。
「お葉、です。よろしくお願いします……」