
スキをちょうだい。
第3章 言葉では伝わらないから
とある休日の朝。
春眠、暁をおぼえずの精神で、惰眠を貪る航太。
そこに、ケイタイのマナー音が割り込んできた。
「なんだよ…‥」
寝ぼけ眼をこすりながら画面をみると、環の名前が踊っている。
「もしもし?」
出ると、電話口で環が笑った。
『めっちゃ眠そうだね。寝てたの?』
「当たり前だろ。まだ9時だぞ」
『もう9時だよ?』
「君の精神年齢、ジジイだな」
『あ。いいの? そんなこと言って』
「ああ?」
『今日、遊ぼうと思ったんだけど、傷ついたから切るね』
「えっ?! おい、たまーー」
呼び止めようとした航太だったが、電話はすでに切られて、エラーの音が鳴っている。
ーマジで切った、あいつ!
航太は起き上がり、電話をかけなおした。
三回目のコールの後、やっと電話にでた環は開口一番に言う。
『何か言うことは?』
「…‥ごめんなさい」
『よく出来ました!』
他愛ない茶番はそこそこに、行きたいという旨を伝える航太に、環は集合時間と場所を伝えた。
電話が切れるやいなや、航太は部屋を飛び出して、洗面所へ向かった。
ご機嫌で準備をしていると、母親が入ってくる。
「あら、おはよう。早いのね」
「ちょっと出かける」
「あ、そう。お金は?」
「小遣いあるから、へーき!」
「そう…‥」
準備を高速で終えて、再び、部屋へと駆け戻る息子の姿に、母親は呆然としつつ、呟く。
「好きなコとデートかしら。まさかね」
部屋に戻った航太はクローゼットを開け、その前で仁王立ちして思案する。
ー何、着てこう。
しばらく考えてみたが、全く、おしゃれに興味がないのと、同じような服しか持っていない現実に打ちのめされて、結局、目新しくない普通の格好になった。
「よし!」
しかし、気合いは十分で、航太は颯爽と家を出た。
