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スキをちょうだい。

第5章 亀裂ノあいだ


 ある日の放課後。
 航太が忘れ物を取りに教室へ戻ると、環の姿があった。

 気まずい間が流れる。

 それを打ち破ったのは、環だった。

「犯人捜し、してるんだって?」

 相手の視線を浴びながら、航太は自分の席へ行く。

「順調?」

「全然。どこ捜してもすれ違い」

 忘れ物は見つかったものの、何だか気まずく、航太は机に腰掛けて、窓の外を眺めた。

「手伝おうか?」

「いや。また写真とられても面倒だし」

 再び、重い空気が流れる。

「最近、出雲と仲いいね」

 心のどこかが、ビクリと跳ねた。
 それを隠すように、航太は冷たくあしらう。

「別に。関係ない」

 背後で、椅子を引く音がした。
 環が立ち上がったのだ。
 しかし、航太は決して、相手を見ることはしなかった。

「俺のこと、嫌いになった?」

 心臓が痛いほど脈打つのは、相手の存在を近くに感じたからではない。

 涙が出そうなほど苦しいのは、相手の言葉を否定したくてたまらないからだ。

 だけど、それをしないのはーー出来ないのは、もう、亀裂が入ってしまっていると思いこんでいるからだ。

 そして、その思いこみを、彼は吐き出してしまう。

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