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スキをちょうだい。

第5章 亀裂ノあいだ


「オレたちさ、もう駄目なんだ」

 環は、何も言わずに、航太を見ていた。

 窓の外はまだ明るくて、相手の顔を映してはくれなかったし、今、いる位置でも、航太の表情は伺いにくかった。

 でも、分かる。
 今にも泣きそうなのを我慢しているということは。
 どうしてなのかも、察しがついていた。

 それでも、環は黙って、航太の背中を見つめた。

 頼りない背中は、続ける。

「こんなことになってさ、いい機会じゃん。まあ、お前は何も変わらないんだろうけど…‥」

 息を吸って、深く吐いて。
 航太はやっと、環を振り返る。
 そうして、ポツリと呟く。


「『トモダチ』に戻ろう」


 環の表情が、一気に険しくなった。
 しかし、怒っているよりは悲しそうで、航太はいたたまれなくなった。
 沈黙も恐ろしく、彼は、一方的にしゃべり続ける。
 
「そうだよ。オレたちはーーオレは普通じゃなかった。もう止めにしよう。こんなの終わりだ。終わり」

 あはは、と、乾いた笑いが響いた。

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