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スキをちょうだい。

第5章 亀裂ノあいだ

 かなでは、案の定、絶叫マシンに乗りまくった。
 おかげで航太は死にそうな思いをしたが、かなでの心の底から楽しんでいる笑顔を見れば、すぐに癒された。

 時間はあっという間に過ぎていって、気がつけば、太陽は沈み、空が深い藍色に染まりつつあった。

「ねぇ、あれ乗ろうよ」

 かなでが指差したのは、ライトアップされた観覧車だった。

「男二人でか?」

「最後だからさ」

「仕方ねぇな」

 言いながらも、航太は笑顔なのであった。

 ロマンチックな雰囲気に包まれた観覧車に乗ろうと並んでいるのは、うわついたカップルが多く、男二人組は、やはり浮いていたが、それさえも、航太は気にすることはなかった。

 やがて、順番がきて、二人はゴンドラへと乗りこんだ。

 ゆっくり、ゆっくりと、動くゴンドラの中は、妙に静かに思えた。

「キレイだね」

「そうだな」

 それきり、二人はしばらく無言で、窓の下に広がる街の光を眺めた。

 ふと、前のゴンドラを見上げると、乗っているカップルがキスをしていて、今更ながら、気まずい気分になり、すぐに目線を窓の外へ戻した。

「航太くん」

「ん、何?」

 呼ばれても、航太は相手の方を見ることができなかった。

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