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スキをちょうだい。

第7章 特別なひと


 地獄の時間が終わって、航太はフラフラと歩いていた。

 辺りは日が暮れはじめていて、子どもたちがはしゃぎながら、横を走り抜けていった。

 ふと、視線をあげると、環の家があるマンションがあった。

 無意識の内に来てしまったようだ。

ー何やってんだか、オレ…‥。

 苦笑して、帰路につこうと踵を返した、その時。


「航太?」


 聞きたくて、でも、一番聞きたくない声に、彼は呼び止められた。

 振り返らなくても、声の主は環だった。

 環は何もなかったかのように、いつもの調子で話しかけてきた。

「よかった。話したいことがあって、電話したんだけど通じなかったから」

「いや、えっと」

「立ち話もなんだから、家あがって」

 腕へ触れようとした手を、航太はとっさに振り払った。

 環が不思議そうな表情で、航太を見た。

「あ…‥」

 ごめん、と、航太は口ごもる。
 相手の目も見られなかった。

「あがって」

 もう一度、環に言われて、航太はこくりと頷いた。

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