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スキをちょうだい。

第7章 特別なひと


 身体中がズキズキと痛んで、締めつけられるようだった。

「環のことを想う権利も、想われる権利も、オレには、なくなっちゃったんだよ…‥」

 かなでの手に、舌に、反応してしまった。

 薬を使われたとはいえ、それは紛れもない事実だった。

 どんなことがあったとしても、環にだけだと、思っていた。

 だからこそ、彼は言えたのだ。

 『スキ』という、決して、返ってくることのない言葉を。

「航太」

 後退りした背中が壁についた。

 環の手が触れて、航太はまるで、だだっ子のように腕を振り回した。

「来るな! 触んな! やだ、やだよ、嫌」

 ぎゅっ、と。

 環の温もりが体を包む。

「ごめん。今までいっぱい傷つけたね。これからはずっとそばにいるから」

 耳元で囁かれる言葉は、今までのどんなものよりも、優しく航太の心をくすぐった。

「何があったの? 話してくれる?」

 情けない声を漏らして、航太は泣きじゃくった。

 環の薄い胸板を濡らしながら、全てを打ち明けた。

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