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スキをちょうだい。

第1章 ひみつ


 帰る時には、辺りはすでに夜になっていた。

 瞬く星を眺めながら、航太は冷える両手を制服のポケットに突っこんで歩いた。

 隣には環がいるが、二人とも無言だった。やがて、分かれ道についた。

 家路を行こうとする環を、航太が引き留めた。

「なぁ、環」

「なに?」

「好きだよ」

 航太がそんなことを言うのは珍しいことだったから、環は驚いた様子をみせた。

「え、どうしたの?」

「うるせー」

 言ったくせに恥ずかしそうにする航太に、環は笑いながら言った。

「ありがとう」

 そう言われて嬉しくないわけじゃない。

 むしろ、それは、航太のことを『友達以上恋人未満』だと思っている環にとって、最大級の愛の言葉だろう。

 だけど、航太は少し寂しさを感じる。

 自分は「スキ」と言うのに、彼は「キス」しかくれないことを。

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