テキストサイズ

スキをちょうだい。

第1章 ひみつ


 甘い囁きと下半身への刺激は、航太の理性を完全に吹き飛ばした。

 紡ごうとした言葉は熱い吐息に変わり、抵抗の態度は受け入れる体勢に変わった。

 背中に手を回し、切なげに喘ぐ航太の耳たぶを、環は優しく噛む。

「んぅっ」

 たったそれだけなのに、航太は全身を大きく震わせ、声をあげる。

 そんな彼に、環は静かに笑いながら、尋ねる。

「ねぇ、なんでやきもち妬いちゃったの?」

 その間も甘い刺激を与えられて、航太は嬌声の隙間で答える。

「…‥ほしくて」

「何を?」

「手繋いだり、してほしくて。したことないから」

 くすくすと、耳元で環が笑った。

「する必要ある?」

ーしまった…‥。

 航太の心臓が跳ねる。

 今までのものとは違う理由で。


「俺たち別に付き合ってないじゃん」


 環の語調は変わらず優しい。

 だが、冷えた水を一気に飲み干したように、自分の体から熱が引いていくのを航太は感じた。

 それは、相手に失望したからではない。

 その言葉を言ってしまった『昔の自分』に対する後悔からだ。

「こうやって時々エッチするだけじゃ、足りない?」

 真実を言えたなら。

ー楽だろうな…‥。

 航太は答えとして、環にキスをした。

 夕暮れ時の誰もいない図書室に、濡れた音が響いていた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ