
~夢の底─
第1章 ─水と炎と。
(チャンミン─さん…?)スマホの向こうの上擦った声が、息を呑む。「…今、いい? 話しても」(あッ─ハイ…)「メモ見たから、かけたんだけど」(ハイ…)「ヒースくん? 今日、忘れ物を有難う」(はい。ア…こちらこそ、あの─ありがとうございます)ハキハキと、明るい声になる。(チャンミンさんが僕に電話くれるって、何だか…嘘みたい)「そんなに驚いた?」(はい)「ヒースくんは…アルバイト? まだ学生?」─小さく、笑う声のあと、(…練習生です)また、微かな笑う声が、聴こえた。「そう…。歳は?」(ハタチは、過ぎました)イタズラっぽい口調になる。「いいね、若いね…」(ハイ、チャンミンさんは年増になりましたね)「─はっきり、云うね…」ため息を吐き、「もう…まったく、最近の練習生は」(あ、失礼しました)「まぁ…この頃、腰も痛むしね」(そうなんですか…大丈夫なんですか)「うん。ま…時々、目もかすんでね」(ハァ?)「冗談、で…」(…あの)「ハイ、何? 冗談だから」(僕あの…)「はい?」(練習生は…)「うん、何?」(今月限りです─)「え…ッ?」(辞めるんです、香港に帰ります)「やめる…? どうして」(才能ないから。ついていかれないんです、─諦めました」
